2026年10月6日から15日まで、韓国・釜山で第31回釜山国際映画祭が開催されました。
私たちクエストリーは、併設のマーケット「ACFM(アジアコンテンツ&フィルムマーケット)」に、会社として初めて自社ブースを出展しています。
カンヌ、アヌシー、そして広島に続く今回の釜山。アジア最大の映画のマーケットで、私たちは何を見て、何を感じたのか。
会期中の10月12日には、韓国のコンテンツ投資会社Solaire Partnersとの、日韓共同コンテンツファンド組成に向けたMOUも締結しました。この提携については改めて詳しくお伝えすることとし、本記事では私(代表・伊部)が釜山での日々をレポートとしてお伝えします。
アカデミー賞にもつながる、アジア最大の映画祭
釜山国際映画祭は、1996年に始まった韓国で最初の国際映画祭です。いまではアジア最大の映画祭として、世界中から映画人が集まります。
今年は国際映画製作者連盟(FIAPF)の認証を受け、正式に国際A級映画祭に分類されました。さらに米国アカデミー賞の新しい規定により、釜山の最高賞を受けた作品は、国際長編映画賞を争う資格を自動的に得ることになりました。対象となるのはベルリン、カンヌ、ヴェネツィアなど六つの映画祭で、アジアからは釜山が唯一です。
カンヌやアヌシーと同じく、釜山も「映画祭」と「マーケット」の二つの顔を持っています。一つは、作品を上映し、審査し、称える映画祭。もう一つは、その隣で完成した作品の売買や企画への出資の交渉が行われるマーケットです。
釜山のマーケットであるACFMは今年、10月10日から13日まで開かれました。昨年は過去最多となる約3万人が参加しており、アジアのコンテンツビジネスにおける最大の交差点といっても過言ではない場所です。
見学する側から、商談する側へ
実は昨年も、私は釜山を訪れています。ただマーケットに入るためのバッジは買ったものの、自分たちの場所もなければ、関わるプロジェクトもありませんでした。会場をひととおり見て回り、あとは映画を観て過ごしました。
それが今年は、クエストリーとして初めて自社ブースを構えることになりました。現地に入ったのは、関係者を合わせて9人ほどのチーム。何もかもが初めてで、何を印刷すればいいのかというところから手探りでした。
ブースの場所は幸運なことに、誰もが必ず前を通る会場の入口近くでした。周りに並ぶのは、日本の会社も含め、完成した作品の買い手を探す映画会社や配給会社のブースがほとんどです。
そのなかで、企画開発の段階から一緒に取り組むパートナーや、ともに出資するパートナーを探す「ファイナンス」のブースはかなり異色だったようで、日本の方々からも「この会社は何をしているんですか?」と声をかけられました。クエストリーの名前を知ってもらうきっかけとしても、確かな手応えがありました。
私が滞在した3日間で、事前に予約が入っていたミーティングは十数件でした。その場で立ち寄ってくださった方を含めると、もっと多くの方と話をしました。クエストリーのプロジェクトに関心を持ってくださる方もいれば、自分たちの企画にファイナンスをしてほしいという方もいる。韓国やアジアを中心に、世界中のさまざまな人たちがブースを訪れてくれました。
おかげでというべきか、ずっとマーケットにいたため、今年は映画を一本も観られませんでした。ただそれは、私たちが商談をしに行くフェーズに入ったということでもあります。
もっとも、カンヌやアヌシーと同様、その場で商談が大きく進むわけではありません。ここでつながりをつくり、次にまた会う約束をする。今回は、2〜3週間後に控える東京国際映画祭の併設マーケット「TIFFCOM」で再会しましょう、という話が多くありました。

広島での登壇が釜山につながった
ブースでの商談に加えて、今回は登壇の機会もいただきました。
ACFMには、世界中のプロデューサー同士をつなぐ「プロデューサーハブ」という取り組みがあります。今年はその注目国が日本で、日本から選ばれたプロデューサーたちが、海外の参加者に向けて企画を短く売り込むピッチを重ねていました。私たちがファイナンス面で伴走する『HIDARI』のプロデューサーである松本紀子さんも、その一人に選ばれています。
この日本のプログラムを担っていたのが、映像産業振興機構(VIPO)でした。10月11日、私はVIPOのセッションに登壇し、日本の映画やアニメがどのようにファイナンスされているのかをお話ししました。セッションはパネルディスカッション形式で、VIPOの方の司会のもと、松本さん、そして海外との国際共同製作を数多く手がけてきたプロデューサーの山口晋さんと私の3人が登壇しました。聴衆の多くが海外のプロデューサーだったため、すべて英語で行っています。
実はこの登壇は、8月のひろしまアニメーションシーズンでの私のセッションを見たVIPOの方が、「これを釜山でやってほしい」と声をかけてくださったことから実現したものです。セッションを聞いて、そのままブースを訪ねてくださった方も少なくありませんでした。

韓国の投資家たちは、いま何を考えているのか?
もう一つ、今回とても印象に残ったのが、10月11日の午前に開かれた投資家向けのクローズドなミーティングです。
主催者は、今回私たちがMOUを結んだSolaire Partnersです。会長のチェ・ピョンホさんは、CJエンターテインメントの映画事業本部で総括本部長を務めた人物で、まさに韓国の映画投資界を代表する存在です。会場には韓国の著名な映画ファンドに加え、ヨーロッパ、インドネシア、ベトナム、中国など、各国で映画に投資するファンドの関係者が集まっていました。日本からも2社が参加していました。私たちはもともと参加者に入っていなかったのですが、Solaire Partnersの計らいで声をかけていただきました。これだけの顔ぶれが一堂に会するのは、今年が初めてだったそうです。
議論の中心は、「映画に投資する人たちがこれから何を目指していくべきか」ということでした。
背景には、韓国の映画業界がここ数年、厳しい時期を迎えていたことがあります。制作費が膨らみ続け、なかには100億円を超えるような大作も生まれました。しかし、それを回収できるだけの世界的な配給網はまだ十分ではありません。結果として回収が難しくなり、撤退するファンドも相次いだといいます。今年は持ち直しているものの、資金の出し手を多様化させたいという思いは強く残っています。実際、韓国でも、事業者どうしがリスクを分け合う日本の製作委員会のような仕組みをつくれないか、という議論が出ているそうです。
日本では「製作委員会以外の選択肢」が語られ、韓国では「ファンド投資以外の選択肢」が語られている。立場は違っても、両国が同じ問いに向き合っているのは、とても興味深いことでした。
そのうえでミーティングで繰り返し語られていたのが、「国際共同製作」と「そのための共同出資」です。国の枠にとらわれず、アジアで作品をつくり、アジアで稼ぐ。日本、韓国、中国に次ぐアジアの映画市場はインドネシアだそうで、ベトナムやタイも台頭しています。これまでのように自国で回収し、次にアメリカで回収するという道筋だけでなく、伸びているアジアの市場にフィットした作品をつくろうという発想です。
正直に言えば、私自身は「アジアだから一つにまとまる」という考え方には、少し距離を置いています。あくまで日本があって、そのうえで韓国と組む、中国と組む、アメリカと組む……というほうがいいと考えています。それでも「アジアでつくってアジアで稼ぐ」という発想そのものは、とてもおもしろいと感じました。そして、日本の作品がアジアで勝負する機会は、もっとあっていいとも思います。
韓国のピッチを聞いていて改めて感じたのは、「どう利益を生むかを具体的に語るのがとてもうまい」ということです。この作品をいくらでつくれば、アメリカがいくらで、ヨーロッパがいくらで、アジアがいくらで買う。だから投資家は利益を得られる。さらに韓国では、作品ごとのお金の出入りを明らかにすることが求められるため、投資家はその作品が利益を生んだのかどうかを確かめることができます。回収後の利益の一定割合は製作側にも分配され、ヒット作を生んだつくり手が大きな成功を手にすることもある。
透明性が高いからこそ、投資したいという人が集まってきます。もちろん、売れる見込みのあるものしかつくられにくいという面もあります。それでも外部の資金を活かすという点で、韓国が20〜30年かけて積み上げてきた経験には、学ぶところが多いと感じています。

100人以上が集まった、日韓の夜
10月12日の夜には、Solaire Partnersとの協約締結を記念したレセプションを開きました。
会場は、エグゼクティブ・プロデューサーの李鳳宇さんの知人を通じて押さえていただいた、釜山の海沿いのレストランです。70〜80人も入ればいっぱいになる広さなので、当初は招待カードをお渡しした方だけをお招きする予定でした。ところが2日前になっても、本当に人が来てくれるのか確信が持てなかったため、当日の朝、セレクトしたマーケット参加者の方々にご案内のメールを送りました。すると3時間ほどで、登録者は100人を超えたのです。
当日は人が出入りを繰り返しながら、会場は終始ぎゅうぎゅうでした。釜山国際映画祭のパク・グァンス理事長や、ACFMのキム・ヨンドク委員長をはじめ、韓国の映画界から多くの方が駆けつけてくださいました。俳優のパク・ソンウンさん、リュ・ヒョンギョンさん、パク・ソヒさん、そして韓国を拠点に俳優としても活躍しているギタリストのMIYAVIさんの姿もありました。日本からも、VIPOやユニジャパンのの方々、プロデューサーの方々に来ていただいています。VIPがVIPを呼んでくる。李さんとSolaire Partnersの人脈があってこその光景だったと思います。
会場では、うれしい言葉をたくさんいただきました。国際共同製作を数多く手がけてきた、アジアの名のあるプロデューサーからは「日本との共同製作には可能性しかない」と言われました。「日本はこれまで国内で大きな成功を収めてきた。だからこそ、アジアや世界と組んでいくというビジョンには、まだまだ伸びしろがある」というのです。
日本の大手のプロデューサーの方からは、「これを見て希望を感じた」と声をかけていただきました。海外を見据えた企画は社内で理解を得るのが難しく、実現に至らないことも多い。だからこそ、こういう動きがあると励まされる、と。
Solaire Partnersとのファンドは、これから中身を詰めていく段階です。どのような狙いで、どのようなファンドにしていくのかは、改めて李さんも交えて詳しくお伝えする予定です。
【参考】クエストリー、韓国のコンテンツ投資会社Solaire Partnersと日韓共同コンテンツファンドの組成に向けたMOUを締結https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000115274.html

カンヌ、アヌシー、広島、そして釜山
今年、カンヌ、アヌシー、広島、釜山と回ってきて、それぞれの場の違いもはっきり見えてきました。
カンヌは、映画の世界の頂点です。ヨーロッパからの参加者が多く、世界中の映画人が集まる場所でした。アヌシーは、映画ではなくアニメーションの祭典で、集まる人の属性がまったく違います。
釜山は、アジアのビジネスのハブです。アジアからの参加者が中心で、映画の売買の場という色合いが強い。そのため、キアヌ・リーブスさんが主演声優を務める『HIDARI』への関心は、ここでも非常に高いものがありました。
もう一つ目を引いたのは、韓国の出展企業に、AIをはじめとする新しいテクノロジーを活用した制作を掲げる会社が数多くあったこと。新しい技術をすばやく取り入れ、積極的に使っていく。そこにも、韓国の映像産業のスピード感が表れているように感じました。
続けることでしか、得られないものがある
私が国際映画祭を訪れるのは、これで4回目です。マーケットにきちんと参加したのは3回目になります。
回を重ねて実感するのは、毎年必ずそこにいる人たちがいるということです。VIPOやユニジャパンの方々もそうで、カンヌやアヌシーでお世話になった方々と、ここでまた顔を合わせる。今年はブースを出したことで、「今年はクエストリーがブースを出しているんですね」と、多くの方が立ち寄ってくださいました。
世界の映画業界は広いようでいて、実は狭い世界です。「あそこは1、2年で引いてしまった」と思われるのは、決していい印象ではありません。「来年も来ます」と言えること。そして、クエストリーは当たり前のように来年もブースを出すのだろうと思ってもらえること。それが何より大切なのだと感じています。
1年前、私は一人で、ほとんど観光客のように釜山を歩いていました。それが今年は、チームで臨むことができました。ブースの設営からレセプションの準備まで、取締役の大城理やグローバル戦略・投資家対応を担う中本暁大が中心になって動いてくれ、何よりも現地のメンバーも1〜2週間前からかなり時間と労力を割いて準備を進めてくれました。普段の仕事ではなかなか見えにくいものですが、こうした場に立つとチームとしての総合力がはっきりと表れます。
毎年同じ場所に立つからこそ、この1年でどれだけ変わったかがよくわかります。来年の釜山では、パーティーの規模が大きくなっているのか、ブースが広くなっているのか、扱う作品が何倍にも増えているのか。そうした変化を一つずつ積み重ねていきたいと思います。
次は、東京国際映画祭です。釜山で出会った方々との再会も、今から楽しみにしています。