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2026/10/28

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執筆者 : 

クエストリー編集部

【役員鼎談】「日本のエンタメの玄関口」へ。金融起点で世界に打って出るクエストリーの挑戦

左から山口幹生、伊部智信、大城理。

日本が世界に誇る、エンタメIP。その裏側にある構造的な課題に対し、エンタメ領域に特化した金融、いわゆる「バーティカル・ファイナンス」で業界のアップデートに挑むのが金融スタートアップ、クエストリーだ。

創業から積み上げてきた組織の土台をもとに、今いよいよ日本のコンテンツを自ら背負い、世界市場に打って出る「攻め」のフェーズへと舵を切る。

本記事では、クエストリーを牽引する伊部智信(代表取締役 CEO)、山口幹生(取締役COO 兼 Head of Corporate)、大城理(取締役 Head of Advisory)の役員3名による鼎談をお届けする。揺るぎないチームワークから、人を起点にした独自の投資判断、そして「日本のエンタメの玄関口」として見据える未来図までを語り合った。

攻めに転じる前に、固めてきたもの 

ーーまずは役員である3名の役割分担について教えてください。

伊部:私の役割は、代表取締役CEOとして全体を見ることです。ゴールドマン・サックスで11年間営業を担当してきた経験を活かして案件を開拓し、資金調達や投資家、クリエイター、そして海外のお客さんとの接点をつくる「入口」を担当しています。

大城:私は日立製作所でコンピュータ設計に携わった後、コンサルティングファームで9年間、経営コンサルタントとして構想策定から業務改革まで従事してきました。その経験を活かし、現在は取締役 Head of Advisoryとして、制作会社などの相談に乗る窓口業務や、伊部が開拓したプロジェクトを引き継いで担当しています。伊部が考案するアイデアを組織として客観的に判断し、事業計画の実行や情報整理へと構造化していくのが私の役割です。

山口:取締役COO 兼 Head of Corporateとして、ビジネスサイド全体を見ています。戦略の立案や資料作成などを担い、これまでさまざまなスタートアップや企業支援を歴任してきた経験から、客観的なリスク評価やガバナンス、組織運営を牽引しています。ちなみに私は伊部の大学の部活の7学年上の先輩にあたり、創業初期から経営の相談に乗ってきました。

伊部が「面白い人たちがいる。一緒にビジネスに取り組みたい」と熱意を持って案件を持ってくる。それを大城さんが客観的な情報として整理し、私が「このプロジェクトは、本当に進めて問題ないか?」と冷静に問いかける。これが基本的な我々の意思決定プロセスです。人柄が素晴らしいのも、作品が素晴らしいのもわかる。それでも数字を見て「これはさすがに厳しいのでは」と言うのも私の役目ですね。 

ーーお二人から見て、伊部さんはどんな方ですか?

大城:人の懐に入るのが、ものすごくうまい人です。接点のまったくない相手でも、業界が違っても、相手が何を考えているかを起点に距離を詰めていく。投資銀行の営業で培われたものだと思います。

山口:ただ、慎重さはあまりないですね(笑)。思い立ったらまず動く人です。

伊部:否定はできませんね(笑)。私はいろんなところに飛び込んで、人と会って、全部やりたくなってしまうタイプなんです。最初に「やりたい」と思ったものは、月日が経ってもやりたいままのことが多い。ただきちんと見ていくと、リスクのあるものも少なくありません。だからこそ二人の存在が欠かせないんです。

ーー3人の関係性がよく伝わってきますね。投資家の方々からは、クエストリーのどのような点を評価されていると感じますか?

伊部:前回の資金調達の際も、投資家の方から「この3人の経営陣が揃っていること」が重要な投資条件として高く評価された経緯があります。私はこれまで、さまざまな場面でクエストリーについて発信してきましたが、今の組織の安定感は、この3人で築き上げてきたものだと感じています。

創業からしばらくは、事業の方向性を模索しながら進んできました。スタートアップの常で、人の入れ替わりもありました。そのなかで、山口さんと大城さんは初期からずっと一緒にいてくれた。今のクエストリーの土台はそこにあると思っています。

山口:創業当初から、伊部とは「これから何をやる会社にするのか」を何度も話し合ってきました。あるとき私から伝えたのは、「そもそも何をやりたかったのかに立ち返って、それができる体制にゼロから組み直したほうがいい」ということです。そうして行き着いたのが、伊部がもともと取り組みたかった「クリエイターが正当に報われる仕組み」と「ファイナンス」を掛け合わせることでした。

大城:私が加わった当初は、今とは異なる事業に取り組んでいました。そこから会社としての提供価値を一緒に定義し直し、エンタメ領域に照準を合わせたんです。並行して、山口さんを中心に経営会議の仕組みを整え、案件を組織として客観的に評価できるようにしてきました。

ーー初期から同じメンバーで土台をつくってきたことが、今の安定につながっているのですね。

伊部:そうですね。3人で意思決定の仕組みをつくってきたからこそ、今ようやく、日本のアニメやコンテンツを自ら背負って世界へ打って出る「攻め」のフェーズに入れる。そう考えています。

前例に縛られないエンタメ特化の金融

ーークエストリーはエンタメ領域に特化した金融を手がけていますが、案件を評価する際の判断軸はどこにあるのでしょうか?

山口:我々が最も重要視しているのは「誰がつくっているか」です。従来の投資の世界では、過去の類似実績や数式でヒットを予測し、投資判断を下す方法がありますが、我々はそうした「目利き」には固執していません。制作者や経営陣がどれだけ本気で取り組んでいるか、その熱量や人間性を最重要視して判断しています。

大城:作品の凄さには2種類あると思うんです。見て「面白い」と感じる凄さと、市場で「売れる」凄さ。前者は主観でいくらでも語れますが、後者は正直、誰にもわかりません。作品だけを見ても判断がつかない。だから我々は、それを形にしていく「つくっている人たち」を見ているんです。

伊部:出された計画よりも、それを実行するのが誰かのほうが大事だと私も思います。ただ、それだけでは投資にはなりません。

山口:そこで効いてくるのが、金融の基本である分散投資です。一つの作品だけに賭けるのではなく、本気度が高く、筋がいいと判断したものをポートフォリオの一つとして持つ。一つの作品しか手がけない会社とは、そこがスタンスの違いだと思います。

伊部:加えて大切なのは、どの目線で評価するかです。日本の基準だけで見ると、国内で回収できそうなプロジェクトばかりが残ってしまう。しかし、海外で評価されるものと日本で評価されるものは、実は違ったりもします。海外では欲しがられているのに、日本ではお金がつかない。私たちが入る余地は、まさにそこにあります。

その典型が、ストップモーション時代劇『HIDARI』です。正直に言えば、私自身も最初は、本当にいい作品なのか判断がつきませんでした。でも海外からオファーが来た瞬間に「海外の人は、この金額でも欲しいと思うんだ」とわかった。そうした海外の評価をいち早く取り入れて投資を決めるのが、私たちの基本スタンスです。

【参考記事】
【対談】エンタメ×金融の新たな座組み「株式会社HIDARI」の挑戦|松本紀子 × クエストリー伊部智信
https://questry.co.jp/media/1X8Ssl0j


 ーー具体的にどのような金融手法で支援を行っているのでしょうか?

山口:一般的なVCは、お金を集めてスタートアップに出資するというシンプルな構造です。しかしエンタメファイナンスは、そう単純ではありません。

我々は、単一の作品に資金を出す「プロジェクト出資」を行うこともあれば、PEファンドのように企業そのものに出資して経営改善から入り込むケースもあります。金融の世界でそれぞれの専門家が担っている手法を縦に切り分け、一つずつ学びながら広げてきました。

ーーみずほ証券と協業したアニメ特化型ファンドや、パイロットフィルムに特化したファンドなど、ファンドも複数組成されていますね。

山口:はい。資金を出していただく側との関わり方も、一つではありません。クエストリーそのものに出資していただく形もあれば、ファンドを通じる形、作品に直接出していただく形もあります。出す側にも受ける側にもいくつもの選択肢があり、それを案件ごとに組み合わせられる。そこが我々の大きな武器です。

もっとも、これだけ形が多様だと、関係者ごとに使う言葉も見ている数字も違ってきます。そうした情報を集めて一つに整理しているのが大城さんです。

ーーそこまで複雑な座組みを構築できる会社は、国内でも稀有ではないでしょうか。

伊部:そうなんです。そもそも私たちと同じような座組みをつくろうとしている会社自体が、国内にはほとんどいません。

その結果、今のクエストリーには「まずは相談してみよう」と、業界内から良質なプロジェクトが自然と集まりやすい状態が生まれています。この独自のポジションそのものがクエストリーの大きな強みだと思っています。

大城:以前は、話を聞かせてほしいと言われて、こちらが情報を提供する側に回ることも多かったんです。それが変わったのは、『HIDARI』や『プリンセスぞのふ』で、我々自身がリスクを取ってコミットするようになってから。それまでに蓄積してきた業界の知見を発信することとセットになったタイミングで、さまざまな方から一気に相談が来るようになりました。

受け身を脱却し、海外市場開拓へ

ーー組織基盤と独自の金融スキームが整った今、クエストリーは今後どのようなフェーズへ向かうのでしょうか?

伊部:これまでは、国内で私たちの認知を広げ、良質な案件やプロジェクトを集めることに注力してきました。しかし、ここからは本格的な「攻め」、つまり海外市場へ直接アプローチをかけていくフェーズに入ります。

日本のエンタメ業界は長らく、素晴らしいコンテンツをつくりながらも、海外からの需要があればそれに応じるという「受け身」の姿勢が主流でした。けれどそれでは、主導権も大きな利益も海外に握られてしまいます。先ほど例に挙げた『HIDARI』も「全額出資の代わりに、権利もすべて出資者へ」という、クリエイターにとって苦しい条件交渉がありました。

私たちはそうした状況から脱却し、自らが日本の作品を背負って、海外に直接売りに行きます。作品の権利を預かり、あるいは譲り受けて、私たち自身の手でグローバルでの価値を最大化していくアグレッシブな戦略へとシフトしていく考えです。

ーー作品を直接海外へ売りに行く。つまり「セールスエージェント」のような機能を自社で持とうとしているのですね。

山口:そうですね。出資を続けていくと、その作品や会社がもっと成功するための機能が欲しくなってくるんです。なかでも欠かせないのが「海外展開」と「PR」の二つです。『HIDARI』のように強力なクリエイティブパートナーがいれば、我々がやらなくても進む部分は多い。しかし、そうではない素晴らしい制作会社やクリエイターも日本にはたくさんいます。

そうしたプレイヤーの作品を、我々が責任を持って世界へ届け、価値を跳ね上げさせる。結果として、それが我々へのリターンとして戻ってくる。この循環をつくることが、我々がセールスエージェント機能を内製化し、海外展開を強化する最大の理由です。

ーー自ら海外へ売り込むとなると、どのような作品がターゲットになるのでしょうか? 新作のアニメだけでなく、過去の作品なども対象になり得るのでしょうか。

伊部:まさにそこが、私たちがこれから大きく仕掛けようとしているポイントです。新作のIP創出はもちろん重要ですが、私たちは長年動いていない過去作品の掘り起こしと、再価値化に大きなビジネスチャンスがあると見ています。

過去の名作IPの中には、権利関係が複雑なまま塩漬けになっていたり、適切な形で海外展開されてこなかったりするものが数多くあります。そこにファイナンスの力で改めて値段をつけ、権利を整理し、新たなビジネスとして動かしていく。

しかも今、海外のビジネスの最前線で決裁権を持っているのは、昔日本のアニメを見て育った世代なんです。

そうした世代に対して、彼らが愛した過去のIPを現代の形にアップデートして届ける。これは、日本のコンテンツが持つ歴史的な資産を最大限に活用できる、非常に強力な戦略だと考えています。

山口:以前イタリアを訪れたとき、タクシーの運転手に「日本から来た」と話すと、『ドラゴンボール』や『キャプテン翼』がどれだけ好きかを熱心に語り出したんです。こういう場面に出会うたびに、日本のアニメが海外でどれだけ深く根付いているかを感じます。

次の30年のスタンダードをつくる

ーー海外展開を自ら手がけていく中で、クエストリーは今後どのような立ち位置を目指していくのでしょうか。

伊部:ひと言で言えば「日本のエンタメの玄関口」です。これまでは「エンタメ産業特化型の金融」として機能してきましたが、今後はファイナンスを起点としつつも、海外市場へダイレクトに接続するハブとしての役割を強化していきます。

将来的には海外拠点の開設や現地での採用、グローバルなイベント開催なども視野に入れています。海外の投資家や事業者から見て「日本のエンタメのことで何かやりたいなら、まずはクエストリーに聞けばいい」と言われるような存在になりたいですね。

私たちは、お金を集めて出資・回収するだけの役割にとどまるつもりはありません。流通やPR、海外セールスといった付随する機能は、自社で持つか、誰かと組んででも揃えていく必要がある。ファイナンスを起点に、そうした機能を一つずつ広げていきたいと考えています。

ーー単なる資金提供者ではなく、世界で勝つための新しいエコシステムそのものをつくるのですね。

伊部:そうです。現在の日本のコンテンツ制作の大多数を占める「製作委員会方式」が誕生して約30年が経ちます。当時は素晴らしい発明品だったこのシステムも、現代のグローバル市場においては限界が見え始めています。

業界が大きな変革期を迎える中、これから先の30年を見据えた新しいグローバルファイナンスと流通のスタンダードをつくる必要があります。大手企業では既得権益の調整が難しい領域だからこそ、枠組みにとらわれずゼロベースで動ける私たちのようなスタートアップが新しい業界標準を切り拓くことに、大きな価値があると思っています。

ーー最後に、これからのクエストリーについて、一言ずつお願いします。

山口:クエストリーが取り組んでいるのは、日本の強みであるエンタメIPに、世界から正当な評価と資金が集まる仕組みをつくる挑戦です。

金融の力でクリエイターを支え、彼らがつくった作品が世界へ出ていく後押しをする。それは金銭的なリターンにとどまらず、文化を育てる新しい循環をつくることでもあります。この仕事に、私自身いちばん面白さを感じています。

大城:私は、クエストリーという会社は「既存のルールや業界の枠組みに縛られず、ゼロベースで新しい仕組みをつくれる」ことが最大の強みだと思っています。

海外を目指すクリエイターの利益を本当に実現するためには、前例がないのであれば、その枠組み自体からつくり上げる必要があります。型にはまらず、常にクリエイターが求める目的から逆算して実行する。その意志を持ったチームだと自負しています。

伊部:日本のアニメやIPは、国境や言語を越えて、世界中の人々をつなぐ大きな力を秘めています。大げさな話ではなく、一つのキャラクターが持つ熱量が、国と国を近づけることもある。私たちが自ら海外へ打って出るのは、日本のコンテンツが持つその「世界とつながる力」を最大限に広げたいからです。

クエストリーには、創業期をともに乗り越えてきたチームと、それを形にするファイナンスの仕組みがあります。日本の作品が世界で正当に評価される。その未来に向けて、同じ方向を見ている方々とぜひ対話を重ねていきたいと思っています。

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